非情な人災に耐えるH家のこと

太古、青い入江だったところが緑なす谷津田になっていた。

その谷津田は、磯に棲むアメフラシみたいに何とも面白い形をして生きていた。しかし、近年は耕作を放棄され、そのあげく上流部2/3位が残土埋立場へと貸されてしまった。そのアメフラシ状谷津田へと突き出している丘陵のその突端に建つH家。谷津の埋立ては、丘陵面をはるかに越えて、その西側20~30mで2階屋根の高さに達し、まるで恐ろしい大津波の静止画像を見せつけられているようだ。そして、いまだにまとわりついている危険色(黄色)のショベルカーが「環境権だとオオオ?景観権だとオオオ?条例だとオオオ?クッソクラエエエ」とがなり立て、マイケル・ジャクソンの絶唱“アース・ソング”が抗議する。

≪Hさんの喜びの日々、嘆きの日々≫

先日、Hさんのもうすぐ90歳になられるというおばあ様からお話を伺った。

「長女の嫁いでいたこの四街道によんでもらって移り住んだのですよ。30年前に。のちの大地震で有名になった山古志村からね。」(どうりで越後美人なんだ!)

「ここは、冬も暖かくて、緑の谷津田が見下ろせて美しくて住み良くて、ご近所の人にも親切にしていただきましたよ。おとなりの(と言っても何十メートルも離れている)Kさんは下の田んぼを。水が豊かで「釣り堀を」という話も出ていたくらいですよ。私はあちらで農家だったんで畑作りをがんばりましたよ。田んぼはやれなかったけど。娘がいいところによび寄せてくれたって喜んでいたんですよ。」

ところが暗転。

「6年位前、私どもには何のお話もなく工事が始まって、ひどい騒音で、井戸水も変になって、訴えたら井戸を掘りなおしてもらえたから、水のことはとりあえずよくなったけど、周りはこんなで、いつまでたってもきまりがつかないですよ。」

≪歯がゆい!≫

「山古志村で天災に遭うことはまぬがれたかわりにこちらでこんな人災に遭うなんて!」

でも「井戸水が飲めなくなった時点でそれが公表されていたなら!メダカが死を以て教えてくれるまで、私たちは不法な埋め立てによる地下水汚染のことを知らなかった。それも、下流部分がメダカの会の観察地だったから教えに気づけたのだ。そして、メダカの会の人々が私憤を公憤へと変えてくださったのは、せめてもの幸いだ。」

井戸水が飲めなくなり、なんとペットボトルを買い続けていらっしゃるというOさんのことだって、歯がゆい。報復が怖くて苦情が言えなかったなんて。私にもあるぞ、この悔しい体質。ひょっとしたら、まだあまり意識できていない加害者体質も。